テーマ公募型自由集会(2000.4.1,新潟)
トラクタと作業機のコミュニケーション -国際規格ISO11783とその動向- (part 3)

3. 農業機械エレクトロニクスに関する研究会
「トラクタ・作業機の制御と通信のための国際規格ISO 11783」の概要


農林水産省草地試験場 元林浩太


File updated : 2000.3.19

1.概 略

 ドイツのハノーバー市で隔年開催される大規模な農業機械見本市「Agritechnica」に併せて、農業機械エレクトロニクスに関する研究会が開催された。トラクタ作業機の制御・通信のための国際規格ISO 11783と題したこの研究会は、ドイツのLAV(農業機械製造社協会)主催によるもので、同規格の策定を進めるISO/TC23/SC19/WG1(表1)の協賛を得て、各国から60余名の出席者を集めた。

 表1 ワーキンググループの位置づけ 
        
 ISO(International Organization for Standardization) 
   │
   TC23(Technical Committee 23) 
    │ Tractors and machinery for Agriculture and Forestry 
    │  
    SC19(Sub Committee 19) 
     │ Agricultural Electronics 
     │  
     WG1(Working Group 1) 
         Mobile Machines 
         ・ISO 11783規格の策定 

2.研究会の内容

 この研究会では、2000年8月を目標に現在も策定作業が進められている農作業機械用データ通信規格ISO11783に関して紹介された。これは、農用トラクタと直装、半直装、けん引式及び自走式作業機のための CAN(Controller Area Network)によるシリアルバスシステムを規定するものである。
 ここでは、各種のセンサ、アクチュエータ、制御機器、データ蓄積や表示装置等の間のデータ転送の書式及び理論を定めており、この標準化されたネットワークにより異なるメーカーの機器同志の相互接続が可能になる。特に、精密農法技術の実用化のためにも、電子的な通信プロトコル標準化の必要性が高い。即ち、基地局や農家コンピュータの「管理情報システム(Management Information System)」、 作業機、オペレータの間のコミュニケーションの確立・標準化は、精密農法実現のために避けて通れない問題である。規格の各章はOSI(Open System Interconnect)階層モデルに沿って記述されている(表2)。
 研究会では、参加者がISO 11783規格を実施するのに必要な基礎的な知識を得られるように、 ISOワーキンググループ委員から、各章ごとにその概略と具体的な内容について詳細に紹介された。

 表2 ISO 11783規格の構成 (注:1999年3月現在) 
        
 第1章規格全般について(WD) 
 第2章物理層(DIS)  
 第3章データリンク層(IS) 
 第4章ネットワーク層(DIS) 
 第5章ネットワーク管理(DIS) 
 第6章仮想端末(WD)
 第7章作業機メッセージとアプリケーション層(WD) 
 第8章動力系メッセージとアプリケーション層(WD) 
 第9章トラクタECU(WD) 
 第10章タスクコントローラと管理情報システム(WD) 
 第11章データ・ディクショナリ(WD)
 (注)括弧内は現時点の状況
  IS:International Standard(規格として確定済)
  DIS:Draft International Standard(公開中)
  WD:Working Draft(推敲中)

3.研究会の報告から

図1 仮想端末の例(ME社)
   第6章で規定される仮想端末は、オペレータとの唯一のインターフェイスであり、LBS(注)製品として既に数社から市販されている(図1)。規格では、具体的な画面表示の方法や作業機バスとの通信フォーマットについて規定している。
 また、第10章では管理情報システム(MIS)について述べている。CANによるネットワークの利点はワイヤハーネスの簡略化のみではなく、機器間の相互接続の互換性が保証されることで、異なるメーカーの作業機械を用いた場合でも年間作業を通じて情報が共有化できることである。本規格では MISの機能として、圃場作業計画を策定し、作業機械に指示を与えるとともに、実施した作業の内容や作物・圃場の情報を収集して管理することを想定している。 また、基地局に設置されるMISとのインターフェイスとしてタスクコントローラが用いられ、その通信規格も規定される。このため、本システムは精密農法実現のための中核技術として捉えられている。

(注)LBSは、ISO 11783の原型となったドイツの農用バス規格(DIN 9684/2-5)。

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